大久保っちのちっちゃな研究室〜 ハーバーフェルトトライベン (Haberfeldtreiben)の世界 〜燕麦畑の狩人たち〜
 


大久保っち(おおくぼっち)のちっちゃな研究室

   大久保っちのちょっとした研究     


グリオが語るアフリカの歴史

〜口承伝承の教材化3

 ここに掲載したものは社会科の部会などで発表したものです。社会科部会世界史研究推進委員会で発表した内容の概要です。アフリカの音楽集団グリオによる口承伝承をどのように教材化できるかを考えたものです。

5.グリオの歌と教材化   (3)その他の戦士の活躍に関する歌

 グリオの歌でよく歌われるのはケレファ=サーネに関するものである。 19世紀半ばに活躍したケレファ=サーネは射撃の腕が冴えていた。領主はその腕を知り彼を奴隷として売ってしまう。そしてマランバという人物の奴隷となったケレファはやがて身代金として家畜百頭を支払い自由人となり、戦士となって生きる道を選択する。ケレファはガンビア川河口に近いニウミに向かい、ニウミ側についてジョカドゥ軍に対して戦った。その後銃弾に撃たれて死ぬ。ケレファバーという歌では彼の死について触れている。
  「パドラからの救援者ケレファは死に、彼の酒は費えた。/マリアーナ・ナンキのケレファよ、サンカン・ナンキのケレファよ。/空腹に衣の不足、女の不在。それでもケレファは死にはしない。//どんなに神を信じても、ある日、命はおまえを裏切る。/すべて生ある者は、ある日、必ず死ぬ。」

5.グリオの歌と教材化    (4)サンゴールの詩とグリオ

 1930年代のパリでは、黒人独特の世界観や価値観などを取り戻そうとする黒人学生たちによるネグリチュード運動が展開された。その中心として活躍したサンゴール(のちのセネガル大統領)の詩を使ったグリオの歌もある。ラミン・コンテがとりあげる「セネガルの狙撃兵への頌歌」を以下にとりあげる。
 「君たち、セネガルの狙撃兵たちよ、冷たく横たわる熱い手の/ぼくの黒い兄弟たちよ。/戦友や血を分けた兄弟以外の者が、君たちを讃えることなどできるものか。/(中略)/一体、何故なのだ、この爆弾は‥‥/石を一つ一つ積み上げて築いたこの家に。/一体、何故なのだ、この爆弾は‥‥//ブッシュの茨を切り払い、辛抱強く広げたこの庭に。」
 ナチス・ドイツによリフランスが二つに分断された時代に、セネガル狙撃兵はフランス兵として第二次世界大戦において戦った。グリオが取り上げる歌も時代が経つにつれその内容にもより現代的な内容も含まれるようになっている。この詩を活用して第二次世界大戦の授業の中に取り入れる方法もありうるだろう。

6.教材化にあたって    (1)アフリカ史をとりあげる際の切り口として

 グリオが語る歴史はマリ王国の建国時の歴史と19世紀の西スーダンにおける英・仏の植民地化の中でのトゥクロール帝国のジハードやサモリ=トゥーレの抵抗運動の時期以降に限定される。マリ王国については、建国のところでエピソードとして活用することはできるだろう。ただ、トゥクロール帝国やサモリ=トゥーレの抵抗運動については、触れている教科書も少ないだろう。ただ、帝国主義政策が展開される1870年代以降のアフリカの抵抗運動で、イギリスの縦断政策とのかかわりで出るスーダンのマフディー国家の抵抗と同じように、フランスの横断政策に対する西スーダンにおける抵抗運動はとりあげる必要はあると思う。アフリカにおける抵抗運動には、ネオ=スーフィズムの流れを受ける教団の影響がそれぞれみられる。そこまでつなげて考えさせるのは難しいとしても、マフ ディーだけではなく、西アフリカにもあつた抵抗運動の一例としてウマルやサモリ=トゥーレの抵抗運動をとりあげてもよいのではないか。またその際の授業を行なう上での切り口として活用してみるのもよいだろう。


6.教材化にあたって   (2)口承伝承による歴史を考える上で

  アフリカ史研究で最近注目されているのは、いまなお不十分である文書史料を補うものとしての口承伝承である。「アフリカのように文献史料が不十分な地域の歴史研究の場合には、口承伝承が重要な史料の役目を担うことになる。これがアフリカ史研究の史料として認められるようになったのは、1950年代に入ってからのこと」(宇佐美久美子著「世界史リブレツト一四アフリカ史の意味」山川出版)である。もちろん、すべての伝承をそのまま活用はできない。その伝承をどう整理し、そこからどんな真実を明らかにするのかという方法上の大きな問題はあろう。 一方、歴史とは何かを考えさせる一つの教材としての活用としては十分にありえることだろうと思う。


6.教材化にあたって   (3)視聴覚教材の活用

 グリオの歌のCDは多く出されている。ラミン・コンテやスンジュール・シソコなど代表的な歌手によるCDは比較的入手しやすい。これらの歌手の歌を聴かせながら、授業の導入に使うのもいいだろう。


《主要参考文献》

 成澤玲子 『グリオの音楽と文化』 勁早書房 1997年
 宮本正興・松田素二編 『新書アフリカ史』(講談社現代新書) 講談社 1997年
 岡倉登志 『19世紀の西アフリカにおけるイスラーム化と植民地化』「岩波講座世界歴史21」 岩波書店 1998年
 福井勝義他 『世界の歴史24 アフリカの民族と社会』 中央公論社 1999年
 宇佐美久美子 『世界史リブレツト一四アフリカ史の意味』 山川出版社 1996年
 江波戸昭 『200CD民族音楽世界の音を聴く』 立風書房 1998年
 坂本勉他編 『イスラーム復興はなるか』(講談社現代新書) 講談社 1993年

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